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小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

「アメリカ小児科学会 小児急性細菌性副鼻腔炎ガイドライン2013」概訳、「日本鼻科学会 急性鼻副鼻腔炎ガイドライン2010」との対比 (5)補助治療編

(1)診断編

(2)画像検査編

(3)治療判断編

(4)抗菌薬編

(5)補助治療編(←今ここ)

 

補助治療について、以下の項目について言及されている。

 

点鼻ステロイド

炎症を抑制して浮腫を軽減し、ドレナージを期待する治療であるが、炎症がどれくらいステロイドに反応するか、小児にも有効であるかどうか、データが限られている。

成人領域ではいくつかのRCTがあり、プラセボと比較して顕著に症状を改善するとされている。

小児では2つのトライアルがあり、いずれも好ましい効果があるとされているが、その効果は小さい。スタディの設計にも問題があり、明確な結論を出すのが難しい状況である。

 

食塩水洗浄:

鼻腔の異物を除去することと、(高張食塩水の場合は)一時的に組織の浮腫を取り除くことを目的として使用される。

RCTは非常に少なく、またその結果も様々である。小児では有効とするスタディが1編のみある一方で、成人領域でのコクランレビューに有効とする2007年のものと、トライアルサイズが小さくバイアスが大きいと指摘する2010年のものが存在する。

 

去痰剤、抗ヒスタミン薬、充血除去薬:

これらを小児に使用した場合のデータが乏しく、結論を出せない。

ヒスタミン薬は、アレルギー背景のある副鼻腔炎患者のアレルギー的な症状には有効かもしれないが、専門家の意見レベルでは、小児のABSに使用すべきではないとされている。

 

※去痰薬と抗ヒスタミン薬は自分は使うことがあるが…。

ヒスタミン薬は逆に閉塞を助長したり、痙攣を助長したりするので、一般的には小児にはもはや用いなくなっている。自分も感冒罹患時には基本的に処方しない。また、アレルギー性鼻炎だなと思ってもロイコトリエン受容体拮抗薬でしのごうと努力する。

 

が、実際に感冒と鼻汁鼻閉症状が連続する小児で、夜間眠れないと受診されるケースにおいて、抗ヒスタミン薬と去痰薬の組み合わせで良くなることも多い。抗ヒスタミン薬の副作用(眠気)かもしれないけれど。なので、自分はこれまではアレルギー性鼻炎に伴う副鼻腔炎、あるいは、今回の急性細菌性副鼻腔炎にかかわらず、これらを使用していた。

 

日鼻誌2010との対比

日鼻誌2010では補助治療に割かれている割合が大きい。

  • 上顎洞の穿刺排膿について、有効であるが、抗菌薬の発達に伴い施行回数が減少している。
  • 鼻処置(吸引と洗浄)は治療に必須。また、ネブライザーで炎症の改善が期待される。

・・・しかしそのエビデンスは非常に曖昧である。RCTがなかったり、画像上の改善やアンケートを根拠としていたり、ネブライザーに関してはそもそも有効性を示したスタディが殆ど無かったりしている。思うに、有効という根拠はないのだが、日本に数多い耳鼻科開業医への配慮的な心情があるように思う。データ的には、ばっさり切り捨てたいという感じもあるが・・・。

  • 血管収縮剤(充血除去剤)は、一過性に改善はするものの、小児への連用がしないこととなっている。
  • ステロイド点鼻は、欧米では推奨される可能性があるものの、日本では保険適応がないと述べている。

・・・抗ヒスタミン薬と去痰薬に関する言及は日鼻誌2010にはない。

副鼻腔炎の定義がAAP2013とくらべてかなり「感染症より」なので、抗ヒスタミン薬の使用が考えにくいのは分かる。去痰薬は使用しても良いのではともおもうが、エビデンスが無いのはAAP2013の記述からわかる。去痰薬をやたら使いたがるのも「日本脳」なのかもしれない。