手洗いと手の消毒は、ライノウィルス感染による感冒を防がない RCT
A randomized trial of the efficacy of hand disinfection for prevention of rhinovirus infection.
Clin Infect Dis. 2012 May;54(10):1422-6
Turner RB et al.
PMID: 22412063
背景:
感冒(この文献ではライノウィルス感染症にフィーチャー)を予防するために、手の消毒がよく言われている。
しかしその有効性は、「自然な環境下では」確立されていない。
そこでこれを評価する。
方法:
2009年秋、若年成人のボランティアを対象にして、9週間のトライアルを行った。
対象は212名で、消毒を指示する群と、処置なし群の2群にランダムに割り付ける(当然であるがブラインドにはできない)。
消毒は手洗いの後に行う。62%エタノール+2%クエン酸+2%リンゴ酸。
このレシピは、著者らの過去の調査で、ウィルスを除去する効果(PMID:20047916 )、「ウィルスを意図的に手につけた場合の」感染予防効果(PMID:15215114 )が認められているものである。
この手洗い→消毒を、起きている間3時間おきに行う。
トライアルは9週間行われるが、とくに消毒群においては、指示された処置の90%以上が実施できていなければ、その時点で脱落となる。
ボランティアは毎日日記をつけて症状を記録する他、手洗いと消毒をした時間も記録する。毎週受診して状況確認などを行う他、鼻汁を採取してライノウィルスのPCRが実施される。
プライマリ・エンドポイントはライノウィルス感染による感冒症状。セカンダリ・エンドポイントはライノウィルス感染(コロナイゼーション含む)、感冒症状。
結果:
消毒群は116名中91名が9週間完走、処置なし群は96名中95名が完走。コンプライアンスの違いは仕方がない。
脱落までのデータを含めて、212名全員で解析を行うと、
・感冒症状については、消毒群48(39-57)% vs 処置なし群75(65-83)%で、P=0.01。ぎりぎり有意差ありと言って良いか??
・コロナイゼーション含めたライノウィルス感染では、42(34-51)% vs 51(41-61)%で有意差なし。
・ライノウィルス感染による感冒症状では、22(16-31)% vs 25(17-35)%で有意差なし。
実は、トライアルを完走した対象者だけで解析を行うと、
・感冒症状についても、55(45-65)% vs 75(65-82)%となり、有意差は消える。
結論:
手の消毒はライノウィルス感染とそれに伴う感冒症状を減らさない
著者らは過去のスタディで、実験的に手にライノウィルスを付着させ、上記のレシピで感冒症状を防ぐことができるかどうかのトライアルを行なっており、そこでは有意に感冒症状を減らすことができていたとのことである。
そこで、なぜ今回のスタディでは有意差が出なかったのか、検討を行なっている。
ひとつは、以前のスタディでは、ウィルスの入った液体に手を漬けてウィルスを付着させ、消毒処置を強制したりと、実験的な面が強かったのに対し、今回はボランティアの自然な行動に任せていること。
2つ目に、液体に入ったウィルスと異なり、鼻汁に包まれたウィルスに対しては消毒効果が及ばない可能性があること。
最後に、手を介した感染以外のライノウィルス感染ルートがあるかもしれないこと。
これらが、今回有意差が出なかった原因として挙げられていた。