simbelmynë :: diary

小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

DRPMを肺炎につかってよいか論争を脇からみていたまとめ

フィニバックス(DRPM:ドリペネム)を肺炎につかってよいかという議論が某MLで盛り上がっていました。
きっかけは米国FDAが「いかなる肺炎にも使用を承認しない」というコメントを2014/3/5に出したことでした。

そもそもフィニバックスというかカルバペネムを肺炎に使用するようなケースはめちゃくちゃ限定的、、、
とはいえ、世の中そう「わかってる」医者ばかりではないので、うちのような中規模病院だと、
「使われちゃってる」ケースは、なきにしもあらず。

ともあれ、FDAアノテーションでもって、では自分としては、自分の病院としてはどうすべきか、
感染制御担当として、院内にどのようなコメントを出すべきか、ということになるわけですが、

言い訳がましいですが、小児科医と感染制御担当の両立という状況で、なかなか感染症専門医の先生方の
情報収集レベルに追いつくのは難しく、、、

このような議論を傍でみていて、へーそうなのかー、と思いながら、
提示された文献をひとつひとつ読み込んでいく、というスタイルになりがちであります。


以下、議論に出てきた主題、文献、各国公的機関の立ち位置などを、時系列にわかりやすくならべて、
自分が理解しやすいようにし、自分の病院にどのようなリコメンドを出すか、考えてみた記録です。




2014年3月5日、米国FDAはドリペネム(DRPM:日本ではフィニバックスとして販売、シオノギ)の、
肺炎への使用について警告した。




FDAが肺炎への適応を認めているカルバペネムはIPMだけ。
	DRPMの適応は、複雑性腹腔内感染症、複雑性尿路感染症に与えられている。
EMA(European Medicine Agency)は、DRPMをHAP(院内肺炎)/VAPの適応で承認している(500mg q8h)。

2008年に2報の大規模RCTの報告があり、

VAPに対して、DRPMはIPMに非劣性	(Crit Care Med. 2008 Apr;36(4):1089)
-DRPM 500mg q8h 4時間投与
-IPM  500mg q6h or 1g q8h 30-60分投与	7-14日間
HAPに対して、DRPMはPIPC+TAZに非劣性	(Curr Med Res Opin. 2008 Jul;24(7):2113)
-DRPM		500mg q8h 4時間投与
-PIPC+TAZ	4.5g  q6h 30分投与	7-14日間

であったと報告されている。


日本では、

呼吸器感染症に対して、DRPMはMEPMに非劣性(RCT)	(化療学会誌 2005 53 S-1:185)
-DRPM	250mg q12h
-MEPM	500mg q12h	7日間
FNに対して、DRPMはMEPMと同等(後方視)	(Jpn. J. Infect. Dis. 2012 65:228)
-DRPM	500mg q8h
-MEPM	1g    q8-12h

との報告がある。


このような背景のもと、EMAからDRPM 1g q8h投与についての有効性・安全性データ集積の要望を受けて、

VAP患者を対象としたDRPM vs IPMの比較試験が行われた。
-DRPM	1g q8h 4時間投与	7日間
-IPM	1g q8h 1時間投与	10日間

しかしこの試験は、死亡率がDRPM群で高かったため、試験途中に早期終了となった。(Critical Care 212 16:R218)

この結果、FDA、EMA、日本は、以下の様な反応を示している。

FDA:(2014/3/5)
DRPMに対しては、「(VAPだけではなく)いかなる肺炎の治療にも」使用を承認しない。
EMA:(2012/6/22)
DRPMをHAPに使用する場合、現在承認されている 500mg q8h の投与量は不十分かもしれない。
DRPM 1g q8h 10-14日間の仕様を推奨する。
日本:(2012/4/27)
DRPMで死亡が多かった原因は、投与が7日間に制限されたことが原因と考えられる。
本邦では投与日数の上限は定められておらず、新たな注意喚起は不要。
(この文章はシオノギ。これをPMDAが承認した)

FDAの対応については、日本国内の感染症専門医の間でも評価がわかれている。

とくに、2012年の報告については、

  • DRPMが7日間、IPMが10日間の試験デザインがDRPM不利だったのでは?という点や、
  • ドロップアウトが多すぎないか?という点について異論が出ている。

これに対する再反論として、

  • 非劣性試験の性格上、効果以外の点で多少の優位(短い日数でOK)を示す必要がある。デザインは妥当。
  • 7日目の死亡率の時点で既に有意差がありそう。
  • FDAの文書では、ドロップアウトの大部分を含めて再評価した数値で判断がなされている。

といった意見がでている。

2008年のRCTや日本国内の臨床試験結果ではDRPMの効果が確認されていることや、EMAが穏健な判断を示していることも、FDAの対応に対して評価が分かれる原因となっている。




これを受け、当院での肺炎に対するDRPM使用に関して、ICTからの意見は以下のとおりである。

1. DRPMをVAP(人工呼吸器関連肺炎)に使用する場合は、500mgから必要に応じて1gを1日3回投与し、
10~14日間の使用とすること。

2. VAP以外の肺炎に対しては、
第一選択としてABPC+SBT(ユナシン) 3g×3-4回/日
無効の場合に、PIPC+TAZ(ゾシン) 4.5g×3-4回/日
 の使用を推奨する。
 ※ただし、ユナスピンでは6g/日までの投与しか承認されていない
 ※いずれも数字は腎機能正常の場合

(3. うちの病院、MEPM(メロペン)もIPM(チエナム)も採用してないのになんでDRPM(フィニバックス)だけ採用されてんねん。もうちょっとエビデンスあるカルバペネムが採用されてたら悩まなくてええ所やねん。どっちか採用してくれへんかな。)