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小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

「アメリカ小児科学会 小児急性細菌性副鼻腔炎ガイドライン2013」概訳、「日本鼻科学会 急性鼻副鼻腔炎ガイドライン2010」との対比 (4)抗菌薬編

(1)診断編

(2)画像検査編

(3)治療判断編

(4)抗菌薬編(←今ここ)

(5)補助治療編

 

抗菌薬の第一選択はAMPCあるいはAMPC+CVA。(Evidence Quality: B;Recommendation)

注:AMPCは、日本の商品名で言うと「サワシリン」「パセトシン」「ワイドシリン」他いろいろ。ちなみに、うちの採用はワイドシリン。AMPC+CVAは、商品名で言うと「クラバモックス」

 

ABSの起炎菌は、S.pneumoniae(Sp)30%、H.influenzae(Hi)30%、M.catarrhalis(Mc)10%と推測されている。黄色ブドウ球菌は稀、しかし、眼窩・頭蓋内合併症は引き起こしやすい。嫌気性菌も稀。

 Spのうちペニシリンに耐性をもつのは10-15%。(※日本とほぼ同様)

Hiのうち10-42%はβラクタマーゼ産生してペニシリン耐性。(※日本と事情が異なる)

 

耐性を考える必要がある要素は、

  • 2歳未満
  • 30日以内の抗菌薬治療歴
  • 保育所

である。

耐性の可能性が少ない場合は、AMPCを推奨する。投与量は45mg/kg/day、分2である。耐性Spが多い地域では、AMPC 80~90mg/kg/day(最大2g)分2で治療を開始しても良い。

 今後数年のうちに13価肺炎球菌ワクチンが普及し、Spが減少してHiが増加する可能性がある。

βラクタマーゼを産生する耐性Hiが多く観察されるようになれば、AMPC+CVA 45mg/kg/day、分2が最適である。重症であったり、上記の耐性リスクが高い場合は、AMPC+CVA 80~90mg/kg/day(最大2g)分2としてもよい。

 

日鼻誌2010との対比

 AAP中耳炎ガイドライン2013のときも書いたが、ここでも同様に、日米の耐性菌分布の違いを考慮する必要がある。

日鼻誌2010でも、ファーストチョイスはAMPC常用量である。ここはAAP2013と同じであるが、基本的に日本でAMPCというと分3で処方されることが多いだろう。

 

 日本でも、ペニシリン耐性のHiは多いのだが、その多くはSpと同様にペニシリンの結合部位が変異しているタイプであり、これはBLNARと呼ばれる。一方でこのガイドラインで注意されている、βラクタマーゼを産生するような耐性Hi(BLPAR)は多くはない。

 

CVAはβラクタマーゼ阻害剤であり、βラクタマーゼを産生する菌を相手にする場合に有効なのであるから、日本においては、耐性リスクがあるからといって、AMPCをAMPC+CVAに変更する意味は、ない。腸内細菌をより多く殺してしまうので、副作用としての下痢が多くなるばかりである。

 

逆に日鼻誌2010では、AMPC無効の場合の選択肢として、CDTR(メイアクト)、CFPN(フロモックス)、CFTM(トミロン)のセフェム系内服薬の高用量投与も選択肢に入っているのだが、これも中耳炎の時に書いたのと同様、βラクタマーゼを産生しない耐性Hi対策である。

 

これらのセフェム系内服抗菌薬は、腸管からの吸収が悪く、病変部位への分布も悪いので、高用量投与が必須であり、日鼻誌2010でも、高用量投与しか選択肢はない。普通にフロモックス3錠分3とかで処方しているお医者さんがよくいらっしゃるが、これは良くないことである。

 

また、CCL(ケフラール)、CFDN(セフゾン)は、日本の感受性分布からいって推奨されないとも明記されている。セフゾンを処方されることがまだまだ開業医レベルでは多いとおもわれるが、これも良くない。

 

なお、追記として、日鼻誌2010では、TBPM(オラペネム)、についての言及がある。耐性菌に対して有効と思われ、難治例や重症例で他の薬剤が有効でない場合に考慮する旨、記載されている。適応が通っているので書かざるをえないのだろうが、医療が整った日本であれば、このような場合は入院して点滴による加療を行った方が遥かに良い予後が期待できる。子供にリスクを背負わせて内服に拘るのはよろしくないので、実際に処方されることは稀だろう。

 

キノロンについては、日鼻誌2010では非推奨。中耳炎に使用が認められているTFLX(オゼックス)は副鼻腔炎に対するう保険適応がないとのことで非推奨である。が、それ以前に事情はTBPMと同様で、実際に処方されることは多くない。

 

経口投与を受け付けない児の場合は、50mg/kgのCTRX(ロセフィン)での治療も可能である。24時間後に症状改善傾向を認めれば、経口投与にスイッチ可能であるし、症状改善を認めなければ、さらなるCTRX投与が必要となるかもしれない。

 

ペニシリンアレルギーの既往がある場合であってもセフェムを使って良い(同じβラクタム系であるが、重篤なアレルギー反応が交差して発生する可能性は低い、というのは、近年よく知られたことである)。

 

ちなみに、ST合剤とAZM(ジスロマック)は、感受性が不良であり、ペニシリンアレルギーの患者の場合の治療選択肢からも「除外する」とされている。

 

日鼻誌2010との対比

日鼻誌2010のマクロライドについての言及は、エビデンスの羅列でよくわからないのだが、最終的には、マクロライドはSpに耐性が多く第一選択とはし難いが、HiであればAZMが有効、成人例ならばAZMの高用量単回投与が「期待できる」とある。いずれにせよ、無根拠にファーストチョイスでEM(エリスロシン)、CAM(クラリス/クラリシッド)、AZM(ジスロマック)などのマクロライドを処方するのは駄目だろう

  

治療期間についてはスタディに乏しい。観察研究からの推奨は10日から28日まで幅が大きい。別の決め方として、「症状が消失してから7日後まで」というものがある。この戦略は症状の個人差にも対応可能であり、最短の投与期間が10日間程度、過剰に長い治療も避ける事ができる。

 

日鼻誌2010との対比

当然日鼻誌2010でもエビデンスは少ないとされる。一応7~10日間を推奨している。

 

最初の選択(抗菌薬投与/経過観察)を行なってから72時間以内に、再評価すべきである。(Evidence Quality: C; Recommendation)

治療開始後72時間で悪化を認める場合、改善のない場合は抗菌薬治療を変更すべきである。また、経過観察72時間で改善のない場合は、抗菌薬治療を始めるべきである。(Evidence Quality: D; Option based on expert opinion, case reports, and reasoning from first principles)