新生児のおしゃぶりと母乳栄養の関係
おしゃぶりを使用している赤ちゃんでは、SIDS(新生児突然死症候群)は少ない。
しかし、母乳栄養を赤ちゃんに覚えてもらうためには、おしゃぶりの使用は悪影響がある、 との認識がけっこう一般的にあって、生後すぐのおしゃぶりの使用は勧められていない。WHOの「Baby-Friendly Hospital Initiative」などでも、推奨しないこととなっている。
先日も書いたのだが、母乳栄養はどうも過剰に神格化されているきらいがあり、人工乳や、おしゃぶりなどの「自然でない」ものについて、必要以上に忌み嫌われることがある。
おしゃぶりの使用を制限することが、ほんとうに赤ちゃんのためになっているのか?
そもそも、おしゃぶりの使用は母乳栄養をほんとうに阻害するのか?実は母乳栄養には最終的に良い影響があったりしないのか?という観点で調査した結果が、Pediatricsに掲載された。
Pediatrics. 2013 Apr;131(4):e1101-7.
Pacifier restriction and exclusive breastfeeding.
PMID: 23509161
方法:
前期:2010年7月~11月 おしゃぶりを普通に配布する
2010年12月は周知期間のため除外
後期:2011年1月~8月 おしゃぶりの使用を制限する
入院中の人工乳使用については、医学的な必要性がない限り推奨しない。ただし制限もしない。
分娩後の入院中における、栄養の状況を調査する。
この研究の限界点として考えられること:
#両群で時期・季節が違う
#医療者にブラインドにはなっていない
・「使用制限期間だから、ミルクを与えよう/与えないでおこう」というように、判断にバイアスが入る余地がある
#おしゃぶりの持ち込みは考慮していない
#「母乳栄養を覚えさせるのが難しくなるので、おしゃぶりを推奨しない」という旨の文言は、前後期とも掲示されたまま。
結果:
2249名の新生児のうち、2010年12月の159名を除外して、2090名の新生児。
前期812名、後期1278名。
完全母乳栄養の割合
前期(おしゃぶり制限なし)は79%
後期(おしゃぶり制限)は68%
(P<0.001)
補助的に人工乳を使用した割合
前期18%
後期28%
(P<0.001)
完全人工乳栄養の割合
前期1.8%
後期3.4%
(P<0.05)
結論:
新生児期におしゃぶりの使用を制限すると、(そして、人工乳の使用は制限しないと)、完全母乳栄養の割合は減少し、人工乳の使用が増えるとの結論に至った。
これまでの前方視的な調査では、「母乳栄養に熱心な母親」を対象とすれば、このような関係は、明確には示されていない。
ので、おしゃぶりの効果については、もうすこし調査が必要。
コメント:
生後初期に人工乳をあたえることの是非、と同じく、「原理主義的な教条が、じつは、最終目的に悪い影響を与えている」という結果となっていた。
ただし、先日の人工乳についてはnが不十分、今回のおしゃぶりについては、ブラインドでない、2群で時期が異なる、といった、研究デザイン上の限界もあるように思われた。
そういった限界を考慮しても、結果はかなりはっきりしたものであるように思われた。