生後初期に人工乳を与えることが、長期的には、母乳栄養をサポートする可能性
どうも、母乳栄養というと、自然や母性といったものにたいする信仰心のようなものになりがちであり、実際に、人工乳に強い先入観を持ったお母さんに対して、必要な人工乳を与える許可を得る際に、困難を感じることがある。
人工乳に対して過度に拒否的で(報道や雑誌の影響だろう)、人工乳を与えてさえいれば、健康でおられた赤ちゃんを、母乳のみにこだわるばかりに低血糖や脱水に陥らせ、不要な入院・点滴を必要としたケースも、幾度か経験したことがある。。
助産師さんの方にも、そのような信仰のようなものを持った方は結構多くいて、幸い、いま仕事を一緒にしている方々には居らっしゃらないのだけど、新生児に人工乳を与えることに拒否的であったり、ポテンシャルを越えて母乳栄養のみで頑張らせたりするようなケースも、また経験したことがある。
そこまでして母乳栄養にこだわる必要があるのか?という疑問もさりながら、「じつは人工乳を与えて赤ちゃんには元気にしてもらっておいて、お母さんも根を詰めずに休んで頂いたほうが、最終的には母乳栄養の維持につながるんじゃないか?」という点を調べようとした研究である。
Pediatrics. 2013 May 13.
Effect of Early Limited Formula on Duration and Exclusivity of Breastfeeding in At-Risk Infants: An RCT.
PMID: 23669513
背景:
母乳による育児をすすめるため、分娩後入院中の人工乳使用を減らそうという努力が為されているが、初期に人工乳を与えることが、実際に母乳栄養にどのような影響があるか、ランダム化されたトライアルはこれまで無かった。
目的:
・母乳のみでの栄養がに困難が予想される児(実際には、生後24~48時間時点まで母乳栄養のみで、5%以上の体重減少がみられた児)に対して、
・母乳が十分に分泌される前に少量の人工乳を与えることが、
・生後1週時点での人工乳使用を逆に減らすか
・生後3ヶ月時点で母乳栄養を改善するか
を決定すること。
方法:
上記の対象児40名を、介入群(人工乳10mlずつを授乳後に与える、母乳が十分となり次第終了する)群と、無介入(「入院中は」母乳栄養を続ける)群に、無作為に割り付ける。
(当然ながら、ブラインドではない)。
生後1週、1、2、3ヶ月時点での母乳栄養と、人工乳の使用状況をアウトカムとする。
結果:
早期に人工乳介入を行った群では、生後1週時点で、20例中2例が人工乳を与えていた。一方、無介入群では19冷中8例で、人工乳を与えていた(つまり、退院後に人工乳を開始していたことになる)(P=0.01)。
3ヶ月時点では、人工乳介入群19例中15例で母乳単独栄養を継続、一方無介入群では、19冷中8例で母乳栄養単独(P=0..02)。
結論:
生後早期に人工乳を与えることは、より長期的には、与える人工乳を減らすことにつながる可能性がある。
体重が減少した児において、人工乳を与えることは、母親たちにとっても、母乳栄養を手助けする有力な手段になる、かもしれない。
コメント:
冒頭のような背景があり、結果にはうなずける部分が多いと思うのだが、いかんせん対象人数が少なすぎてなんとも言えない。
このような逆説的な結論について、現場の人間としては、十分あり得ることだという実感はあるので、ぜひこの10倍の規模でトライアルをしていただいて、母乳育児頑張り過ぎで母も子もへとへと、という状況を回避できるよう、論拠を与えて欲しいと思う。