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小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

文献:えっ?未熟児の酸素飽和度目標値は高いほうが良い??

Oxygen Saturation and Outcomes in Preterm Infants.

N Engl J Med. 2013 May 5. [Epub ahead of print]

PMID:23642047

 

在胎28週以下の児において、酸素飽和度(SpO2)の目標は85-89%と91-95%のどちらが望ましいのか。

2448名を対象とした、3カ国共同のRCT。(BOOST II)

結論としては、目標が低いグループは死亡率が高く、目標人数に達する前にトライアルは終了となった。

 

コメント、の前に感想:

提示された未熟児の死亡率が日本より随分高い。

一般に目標は低く設定するので、低いほうが死亡率が高かったよといわれると「えっ」となるのだが、読んでみると、新生児医療のレベルに結構な差があって、この結果をそのまま日本に当てはめる事はできないと思う。

日本の医療レベルなら死亡率をもっと下げられると思われるので、同じトライアルを日本で行うと、結論が異なる可能性がある。

一方、後述するようにブラインド化への執念は凄まじい。酸素飽和度測定の機器自体に手を加えている。ここまでアグレッシブなトライアルは日本では難しいと思われた。

 

 

コメント:

 

未熟児への酸素投与は、十分与えればよい、というものではない。

まだ結論は出ていないが、酸素の毒性は未熟な肺にダメージを与えるのではないか、という議論もあるし、このグループの以前のトライアル(BOOST I)では、目標SpO2が高いと、以後の酸素依存性が高くなるというデータを出している。

加えて、高濃度酸素への曝露が未熟児網膜症(ROP)を増やす、ということは確立しつつある。

また、中枢神経系に十分な酸素を供給すること自体も重要である。

 

酸素投与の必要性については複雑な問題であり、一般に、この領域では、酸素を十分に与えることが「よいか、わるいか」という二元論にはならず、あっちには良いけどこっちには悪い、という、トレードオフの関係となる。

 

それらをひっくるめて「2歳時点での無病生存率」がこのトライアルの主要評価項目になる予定であった。

これはこれで大雑把だな、と思うのだが、このトライアルはそこまで行き着く前に、死亡率に有意差が出て終了となってしまったのであった。

 

 

上述したが、SpO2目標値を高く/低く設定するために、彼らはなみなみならぬ努力をされている。真の数値を確認したうえで酸素投与量を設定していては、医療スタッフにおいてブラインドにならないからである。

器械に細工をして、SpO2が85-95%の間では、実際より3%低く/高く表示されるように工夫をしている。そして、それ以上/以下の数値となったら、真の数値になだらかに近づくようにアルゴリズムが設計されていた。

表示されているSpO2が90%であるとしたら、それは87%かもしれないし、93%かもしれない、ということである。

 

これでもって、医療スタッフは「真のSpO2値」を知ることなく酸素投与量を調整することになるのであるが、

(・・・患者家族によく同意が得られたものだと思う。)

まあ、高い目標が良いのか、低い目標が良いのかがわかっていないから、このような研究をするわけで、真の値を知らないことに大きな問題があるわけでもない、言えたのかもしれないが・・・日本では無理だろう。

 

さて、これでトライアルが始まるわけであるが、3カ国で1200人あまりが登録された時点で、上記のアルゴリズムに問題があることが判明する。

この器械が示す値として、87-90%の頻度が低く、特に「低い目標設定」バージョンでは、無理やりSpO2値を高く表示するためか、器械が示す値の頻度グラフに2つの山ができてしまっていた。

イギリスの参加者が気づいたとのことだが、なかなかするどい。

 

この結果、アルゴリズムの修正が行われ、頻度グラフはなめらかなものとなった。

が、この修正以前に得られたデータは、信用の置けないものとなってしまった。

 

この調査は2006年からイギリス、オーストラリア、ニュージーランドで開始されていたが、このアルゴリズム修正が行われたのは2008年から2009年にかけてである。

そして、ニュージーランドでは、予定調査人数にすでに達していたので、修正は行われずに調査終了となった。

 

 

最終的な結果であるが、修正前のデータでは、病院退院までの死亡率に有意差は認めておらず、低目標(n=629):高目標(n=630)でRR 0.90(0.80-1.15)であった。

ところが、修正後のデータでは、低目標(23.1% n=592):高目標(15.9% n=590)でRR 1.45(1.15-1.84)と、低目標では死亡率が5割増となってしまい、この時点でトライアルが終了となった。

 

ちなみに、他のエンドポイントとして、修正前後の症例をまとめたデータを示すと、

・未熟児網膜症(ROP) RR 0.79(0.63-1.00) 低目標群が少ない傾向(P=0.045)

・壊死性腸炎(NEC)  RR 1.31(1.02-1.68) 低目標群で多い傾向(P=0.04)

・動脈管開存(PDA)  RR 1.05(0.97-1.15) 有意差なし!!

・気管支肺異形成(BPD)RR 0.99(0.85-1.16) 有意差なし

・脳室内出血(IVH)  RR 1.12(0.89-1.41) 有意差なし

・36週時点酸素依存性  RR 0.90(0.81-0.99) 低目標群が少ない傾向(P=0.03)

となっている(修正後のデータだけを見ても、上記と大きくは変わらない)。

 

ROP、NECには有意ではないが傾向が見て取れたと。BPDに酸素はあまり関係が無さそうか。個人的にはPDAに有意差なしは面白いと思った。

 

 

 

ニュージーランドの関係者おつかれ、というのが正直な第一の感想ではある。

 

個人的な結論としては、高目標群(良い方)の死亡率が15.9%ということで、ちょっと日本とは比較にならんなということしか言えない。

逆に言えば、日本流の管理で、もっと死亡率を抑えられれば、死亡率では有意差が出ない可能性がある。そうすると、死亡率云々にとらわれず、ROPとNECと(PDAもBPDもだが)を天秤にかけて酸素投与量の判断をすることになるわけだが、それは普段日本のNICUで当たり前のように行われていることなのであった。

 

僕が第三世代セフェム経口投与を主張した、2ケース。

気道感染症に第三世代セフェム内服製剤なんて処方する奴はダメだ、などと普段吹聴している不肖の私でございますが、最近実は2例に使用しました。いずれも急性中耳炎の重症で、他剤が無効と判断されたケースでした。時々は使うなあと思いました。

とくに1例目は、「第三世代セフェムのほうがいい」と主張したケースで、言いながら自分でも、これは凄いことを言ってるなあと思っていました。

 

ケース1

 

近くの開業耳鼻科で、急性中耳炎と診断され、AMPC+CVA(クラバモックス(R))が処方されていた1歳児。

5日間で治療を終了し、鼓膜所見は改善していた。

 

治療終了後一週間で、発熱を訴えて当院を受診。

両側鼓膜とも発赤混濁を認め、とくに左鼓膜は強く膨隆しており、重症の急性中耳炎と判断。

 

抗菌薬内服の適応と考えられたが、最近AMPC+CVAの内服歴があるため、これが無効の起炎菌、おそらくH.influenzae(BLNAR)と推定。

CDTR(メイアクト(R))の倍量投与にて治療を開始した。

 

 

しかし、その受診後、予約してあった耳鼻科を再受診された。

そこでは、当院での処方を言ったか言わなかったのか、AMPC+CVAの再投与が選択された。

 

当然、調剤薬局から、当院のCDTRをキャンセルして良いか、と問い合わせが入る。

「AMPC+CVAが無効の菌種を想定してCDTR倍量を選択している。開業耳鼻科のほうに、AMPC+CVAで良いのか問い合わせるべき」と返事をした。

 

 

当院のデータでは、ABPC(≒AMPC)耐性のH.influenzaeは全体の50%ほど。

それでも肺炎ならAMPC投与で十分であるし、中耳炎でもAMPC大量投与すれば大体効果があるので、

第三世代セフェム内服のお世話になることは殆ど無い。

 

中耳でのセフェム系の組織内濃度は期待できないので、投与するとしても倍量投与が原則であるが、

それにしても、第三世代セフェムの経口投与を主張するハメになるとは。

 

 

ケース2

 

2週間ほど前に初診のケース。

初診時、感冒症状と眼脂・結膜充血があり、鼓膜は軽度の発赤と混濁を認めた。

ウィルス性咽頭扁桃炎+急性中耳炎(軽症)と判断し、去痰薬内服での経過観察を選択した。

 

その後、発熱を認めて再受診。これは他医師が診察。

この時は両側鼓膜が発赤腫脹しており、急性中耳炎の増悪と判断され、AMPC 60mg/kg/dayが処方されている。

 

しかしその後も症状が持続するとのことで、再び自分が診察することになった。

AMPC処方時には鼻腔培養が採取されており、H.influenzae(BLPAR)が検出されていた。

 

(本題とは関係ないが、初診時に多量の眼脂を伴っており、H.influenzaeかなあと想定していた。勉強って大事だ…。)

 

BLPARでAMPC無効であれば、大手を振ってAMPC+CVAを選択できる。

(これがBLNARなら、CVAを加えたとしても意味が無い)。

 

が、AMPC+CVAは単包化製剤である。これは吸湿性があるためであろう。

単包化されていると、基本的にその包装の単位でしか内服量を調整できない。

このケースの場合も、体重に合わせた適切な量(80-90mg/kg)に、うまく調整することができなかった。

 

やや不適切な量(このケースでは100mg/kgになりそうだった)にするか、CDTR倍量投与にするか迷ったが、

CDTR倍量投与を選択した。

 

こうも短期間に第三世代セフェムを2例に投与することになろうとは。

 

 

クローズド・クエスチョンの方向性

医師は診察において、多くの場合、問診によって、ある程度の「アタリ」をつけて、そこを重点的に確認していく。あるいは、問診だけで判断できない重要な分岐点を、頭のなかでチェックリストにしておく。

 

だから、診察は「アタリ」を確かめる行為となることが多い(と限定していると足元を掬われるので、全身くまなくチェックすることが大切なのであるが)。

 

親御さんにも色々なタイプがいらっしゃって、「何月何日何時に〇〇度、何時に✕✕度」と、体温の経過だけを話されたり、あるいは、問診する前にいきなり子供のお腹をペロンとだして「さあみて下さい」とされたり、、、落ち着いて経過を聞き取ったり、子供の症状や表情や態度を観察するタイミングは難しい。

 

 

子供の問診には注意が必要だ。とくに、話せるようになった2歳くらいから、小学校にあがるくらいまでの年齢。

 

笑顔を絶やさず、目を見てトークを絶やさず、できたことを褒めてあげる、というのは基本として、子供がほんとうに何を苦痛に感じているのか、問診から情報を得るのはひどく難しい。

 

「頭が痛いの?」と聞くと、「痛くない」という。

母親が、「え、さっき痛いって言ってたじゃない」と聞くと、

「さっきは痛かった」と。文脈にそった答えができない。

 

ゆっくりと話し、ときには何度も同じ質問をしてあげる(すると毎回答えが異なったりするのだが)。

 

 

 

個人的に注意しているのが、クローズド・クエスチョンの方向性について。

 

どうも子供というのは、質問に対して「うん」と答えやすい。

そのほうが、「いいえ」と答えるよりも簡単だからだろうか?

 

なので、答えの「感度」を上げるためには、コチラ側が「そうなのではないか」と疑っていることについて肯定的な聞き方をする。

 

「いま、お腹がいたいですか?」「頭が痛いですか?」

 

ただし、こういう聞き方をして「うん」と答えられても、それを鵜呑みにしてはいけない。

 

次に、「じゃあ、どのへんが痛いか、言える?指でさせる?」と聞いて、答えられたら、ほんとうにある症状と考える。

答えられなくても、それはよくあることなので、症状の否定はしない。ただし、根拠としては1ランク下げる。

 

 

逆に、答えの「特異度」を上げたいときには、「そうだろうなあ、ありそうだな」と思っても、敢えて、否定的な聞き方をする。

 

「のどは、痛くない?」「いま、げーげーは、でなさそう?」

 

と聞いて、「痛い」「でそう」と答えられたら、その答えの信頼性ランクは高い。

 

 

こういう子供との会話の仕方、というか、クセのようなものだけれど、奥さんに聞いたら全然理解してくれなかった(そんな細かいこと考えて会話してんの?アホちゃう?と言われた)のだけれど、仕事で子供に携わる人間に特有のものなんだろうかと思った。

 

親御さんと和やかに話しながらも、頭のなかでは診断機械が動いていたりする。結構腹黒いのかもしれない。

文献:ワクチン(筋注)接種部位と局所反応

 

Vaccination site and risk of local reactions in children 1 through 6 years of age.

Pediatrics. 2013 Feb;131(2):283-9

PMID: 23319538

 

 

1歳以上の140万人に対する600万回の接種を対象としたコホート研究。ワクチンの種類はインフルエンザ、A型肝炎、DTaP。

 

インフルエンザとA型肝炎は局所反応が比較的弱く、接種部位による差を認めず。

 

DTaPは比較的反応が強く、腕に接種した場合に頻度が上昇する。12~35ヶ月で相対危険度1.88(95%CI 1.34-2.65)であった。3~6歳では1.41(0.84-2.34)であり、それ以上の年齢でも差は無かった。

 

結論:3歳未満のDTaPは腕ではなく大腿への筋注を推奨。

 

※筋注での評価であることに注意。よく言われることだが、皮下注しているのは日本だけである。

日本では筋短縮症が社会問題となった経緯から筋注はほとんど為されていないが、これは過去の製剤(抗菌薬や鎮痛薬)の筋注による事象である。現在の不活化ワクチンであれば、筋注したほうが、効果が得られやすかったり、副反応が少なくて済むことが予想される。

この文献においては、筋注は当然の前提条件であって、さらに腕よりも大腿のほうが副反応が弱く済む可能性があると指摘している。

 

※筋注限定のHPVワクチンでは迷走神経反射による失神までもが問題化するくらいなので、日本人のリスク過敏症は何事につけても大きな壁だとは思う。が、今後他の不活化ワクチンについても、筋注の検討が進むことに期待したい。

 

 

米国小児科学会 中耳炎ガイドライン2013 概訳と私的コメント(2)

The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media

Pediatrics 2013;131;e964

PMID:23439909

American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians

この記事は2パートのうち2記事めにあたります。

  1. 診断~抗菌薬を投与するか否かの判断編
  2. 抗菌薬の選択 その他編

抗菌薬の選択 その他編

 

起炎病原体について

 (AOMの病原体としてウィルスと細菌が想定されるが)厳密なAOMの基準と、感度の良い培養を用いれば、AOMのほとんどは細菌の関与がある、としている。

 

※コメント:日本小児耳鼻科学会のガイドライン2009(日小耳2009)ではウィルス性と細菌性を両方想定している。日小耳2009のほうがより軽症例までAOMに含んでいることになる。

 

三大起炎菌は、

肺炎球菌ワクチン普及前(AAP2004の時代)はSpが最多の起炎菌であったが、ワクチン普及後、Hiの増加、Spの非ワクチン株の増加が起こり、結果として現在はHiとSpがほぼ同じ割合である。

化膿性結膜炎を合併しているケースではHiの割合が高い。

マイコプラズマによる中耳炎は以前はあると信じられていたが、実は稀である。

 

※コメント:日本とほぼ同じ。PCV普及後の変化は、日本ではこれから現れてくるだろう。化膿性結膜炎とHiが関連していることは初めて知った。

 

感受性について
  • Spの感受性

データは反復性のAOMに偏ってしまうが、全年齢のデータで、AMPCで40mg/kg/day分2の治療には83%が感受性あり、80-90mg/kg/day分2で87%感受性あり。

AMPC+CVAとAZMの比較ではAMPC+CVAの勝利。

  • Hiの感受性

AMPC40mg/kg/day分2の治療には58%が感受性あり、80-90mg/kg/day分2で82%感受性ありというデータが提示されている(が、これはAOMでないデータでソースもバラバラであるとの断りつき)。

  • Mcの感受性

Mcはβラクタマーゼを産生しAMPCには検査では耐性となるが、McによるAOMは自然軽快も多く、AMPCでほとんどが軽快する。

  • セフェムに関して

SpはCFDN/CPDXに対して70-80%の感受性(AMPCでは84-92%)。

HiはCFDN/CPDXに対して98%の感受性(AMPCでは58%、AMPC+CVAで100%)。

 

セクション4(初期抗菌薬の選択)

以上の感受性を踏まえての初期選択薬の推奨

  • 抗菌薬の1stChoice:以下の児にはAMPC 80-90mg/kg/day 分2を処方する
    ・過去30日以内にAMPCを使用していない
    ・化膿性結膜炎を伴っていない
    ペニシリンアレルギーでない
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

  •  抗菌薬の1stChoice:以下の場合はAMPC+CVA 90mg/kg/day 分2を選択する
    ・過去30日以内にAMPCを使用している
    ・化膿性結膜炎を伴っている
    ・AMPCで改善しない急性中耳炎を反復している
    (Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)

・AMPCの常用量という選択肢はない。(日小耳2009ではAMPC常用量の選択肢がある)。

 

※コメント:インフルエンザ菌のアメリカと日本の違い

Hiは日本とアメリカで素性が異なる。上記でHiの頻度が高い化膿性結膜炎を伴っているケースではAMPCよりもAMPC+CVAを選択するようになっているのだが、日本のHiはβラクタマーゼ産生よりもPBP変異による耐性が多いため、βラクタマーゼ阻害剤を加えても感受性にほぼ差が出ないと予想される。

SpもPBP変異なので、βラクタマーゼ阻害薬は感受性に関係がない。Mcは頻度少ないし弱い。製薬会社は、常在しているMcのβラクタマーゼが悪さをする、とのたまうが、実感することは少ない。
なので、大雑把に言うと、日本で使うぶんにはAMPCでもAMPC+CVAでも抗菌力には大差ないと考える。(ただし、AMPC+CVA(クラバモックス)は効果範囲が広く、過剰治療につながる。嫌気性菌に感受性があり、下痢は多い。しかし総量は少なくてすむので、AMPC製剤より、子供にのませやすい感触がある)。

 

#初期抗菌薬で改善しなかった場合の治療

  • AMPC→AMPC+CVA 90mg/kg/day 分2
  • AMPC+CVA、セフェム→CTRX(ロセフィン)50mg/kgを筋注または静注×3日間

 

#治療変更後も症状が改善しない場合

  • 鼓膜穿刺+中耳内溶液の培養を行うべきである。
  • 不可能な場合は、CLDM+セフェムとする。

 

※コメント:

上でも述べたが、日本のHiの特性をみる限り、アメリカとは異なり、AMPC高用量による治療失敗例に対してAMPC+CVAを投与する意味は薄いと思う。

 逆に日本ではアメリカと比べて入院の閾値が低い。AMPC高用量で治療がうまくいかない症例はさっさと入院させ、点滴加療とする事が多い。そのときに使用する注射薬は、ABPC(ビクシリン)で十分である。日小耳2009では、ABPC150mg/kg/dayもしくはCTRX60mg/kg/dayとなっている。

 

#代替治療:ペニシリンアレルギーのとき

  • CFDN(セフゾン)14mg/kg/day 分1~2
  • CPDX(バナン)10mg/kg/day 分2
  • CXM (オラセフ)30mg/kg/day 分2

内服がどうしてもできないとき:

  • CTRX(ロセフィン)50mg/kgを筋注または静注×1日又は3日間

(FDAに承認されているのは1回静注だが、再発を防ぐには複数回静注が必要とされている)

 

※コメント:セフェム系の内服薬について

AAP2013ではセフェム内服はあくまで効果の劣る代替治療である。これに対し、日小児2009で、重症例の選択肢に倍量CDTR(メイアクト)が入っている。これも、上に述べた、耐性Hiの素性の違いが背景にあるのかもしれない。

ただし、セフェム系の内服薬で日小耳2009に入っているのはCDTRのみ、しかも、常用量でなく倍量(18mg/kg/day)である点については、日本の小児科医・耳鼻科医はよくよく知っている必要がある。AOMに対しセフェムを常用量で用いるという選択肢は無い。

 

セフェム系ではCDTRの他にCFPN(フロモックス)、CFDN(セフゾン)、CPDX(バナン)などが使用されるのをよく見かけるが、少なくとも日小耳2009にはその記載はない。

個人的には、感受性から言って、CFPNやCPDXは使用の余地があり、CDTRとの間に大差は無いとは思う。が、「AOMへはペニシリンの方が良い」「どうしてもセフェムを使うなら倍量投与」が原則であり、セフェム常用量投与はすべきでないとは考える。

あとCFDN(セフゾン)はAAP2013には入っているのだが、日本の感受性分布をみていると、AOMに使用するのは厳しいと考えている

 

AAP2013のCFDNの分1-2内服については謎である。日本では分3で内服させる。セフェムの内服という吸収の悪い薬、薬剤移行の悪い中耳という環境で、十分な組織内濃度が得られるとは思えない。分2なら、内服を容易にする目的で許容範囲なんだろうか(でも自分ならやらないけど)とも思えるが、分1となると意図がよくわからない。これでは効かないんじゃないのか?

 

あと、AOMにAZM(ジスロマック)を使用するというのは、止めてほしい治療選択である。日本でも時々見られるのだが、感受性から言って不利は明白である。AAP2013でも上記のように否定されており、日小耳2009でも記載はない。

 

 

#高度耐性肺炎球菌に対して

LVFXやLZDの選択が考えられるが、FDAには認められていない。

 

※コメント:さらに広域の抗菌薬について

広域の抗菌薬で、日本で小児への使用が認められているものとして、TFLX(オゼックス)やTBPM(オラペネム)があるが、今の今まで全く存在を忘れていた。AOMに対して処方を認められた薬剤ではあるものの、おすすめすることはできない。AOM再発を頻回に繰り返している場合に、しばらくの無治療期間を経て、鼻咽頭あるいは鼓膜穿刺液の培養を必ず採取した後に、これらの薬剤を選択するならば何とか許されるだろうか。しかし自分は一生処方することはないであろう。

 実際には、AMPC+CVA(クラバモックス)を使用して改善が得られなかった時に、これらの薬剤が選択されることが多いだろうが、その状態で更に内服治療にこだわるのは危険であり、さっさと点滴治療で中耳をクリアに戻すべきであると考える。いくら内服治療を親が望んだとしても、リスクを背負うのは子供である

 もし、AMPC+CVAでの治療失敗を経ることなしにオゼックスやオラペネムを使おうとする医師がいたら、さっさと別の医師にかかるべきであるので、この点は強調しておきたい。

 

  • 治療を開始したら、48~72時間後に経過を観察すべきである。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

#治療期間について

AOMに対する最適な治療期間についてはよくわかっていない。

一般的には10日間の投与が行われるが、これは、溶連菌性咽頭扁桃炎のAMPC10日間レジメンに由来する(要するに根拠はない)。

  • いくつかの研究で、2歳未満のAOM治療には10日間投与の優位性が言われているので、AAP2013でもそれを勧める。
  • 2歳から5歳で重症でなければ、7日間投与でも効果は同等と思われる。
  • 6歳以上で重症でなければ、5日間投与でも良い。

 

コメント:

この治療期間は自分の感覚と比べるとかなり長い。

日小耳2009では、軽症重症関係なく5日間投与が勧められている。

 

 

#その他

  • 急性中耳炎を反復している児に対して、予防的に抗菌薬を使用すべきでない
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • チューブ留置の適応
    ・半年間に3回の急性中耳炎のエピソード
    ・1年間に4回、その前の半年間に1回のエピソード
    (Evidence Quality:B、Strength:Option)

  • 肺炎球菌ワクチンはスケジュール通りの接種を勧めること
    (Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation)

 

  • インフルエンザワクチンも勧めるべきである
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • 少なくとも6ヶ月間は母乳栄養を続けることを奨励すべきである。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • タバコの煙への曝露は避けるべきである。
    (Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)

 

 

米国小児科学会 中耳炎ガイドライン2013 概訳と私的コメント(1)

The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media

Pediatrics 2013;131;e964

PMID:23439909

American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians

 

以下、米国小児科学会、米国家庭医学会の発表した、「急性中耳炎(以下AOM)の診断と管理に関するガイドライン2013(以下AAP2013)」について、概訳と、考えたことをコメントします。このガイドラインは、これは2004年に出版されたガイドラインのアップデートです。

 

長くなるので2パートに分けます

  1. 診断~抗菌薬を投与するか否かの判断編
  2. 抗菌薬の選択 その他編 
セクション1(AOMの診断)

ガイドライン2004の診断基準は曖昧で、滲出性中耳炎症例がAOMに含まれてしまう危険があった。その結果、自然軽快していたかもしれない症例に抗菌薬が投与されていた可能性がある。AAP2013では、診断基準を厳密にする。

 

  • 鼓膜が中等度以上に膨隆している場合、または、耳漏が新たに出現した場合に、急性中耳炎と診断する。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)
     
  • 鼓膜が軽度膨隆しており、かつ、48時間以内に始まった耳痛・耳を気にする仕草を認める場合、または、鼓膜が強く発赤している場合。
    → 急性中耳炎と診断する。
    (Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)
    ※訳注:and/orの係りがよく理解できなかったが、膨隆は必須条件と思われる。

  •  中耳に滲出液貯留の無い児をAOMと診断すべきではない。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

※コメント:AAP2013において、AOMの診断には耳漏、鼓膜の膨隆のいずれかが必須となっているようである。

 

セクション2(疼痛コントロール)
  • 痛みの評価は大切。痛みがあるならば、それを抑える治療を勧めるべきである。
    (Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation)

 

※コメント:痛みのコントロールは強く推奨されている。

 

 セクション3(抗菌薬の投与)
  • 以下のサインは重症を示唆する。抗菌薬を処方すべき。
    ・中等度以上の耳痛
    ・48時間以上持続する耳痛
    ・39度以上の発熱
    (Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation)

  •  2歳未満の患児:重症サイン無し:両側
    → 抗菌薬を処方すべきである
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • 2歳未満の患児:重症サイン無し:片側
  • 2歳以上の患児:重症サイン無し
    → これらの場合は、抗菌薬を処方するか、経過観察とするか、保護者と相談して決定する。
    経過観察とした場合、48~72時間後に確実に再診察すること。
    再診察時に改善傾向がなければ抗菌薬を開始する。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

※コメント:2歳以上の軽症でも抗菌薬投与の余地があり、抗菌薬開始基準が緩い印象である。

これは、AOMとの診断を厳密に行う(滲出性中耳炎との区別を明確につける)ことが前提にあるからだろうか。

ちなみに、日本小児耳鼻科学会のガイドライン2009(日小耳2009)では、軽症例は抗菌薬非投与で3日間経過観察とされている。この軽症はスコアリングで判定される。膨隆があっても軽症になるケース、膨隆がなくても中等症になるケースが一部存在する。

日小耳2009では膨隆のないケースもAOMに含め、経過観察を主体とする一方で、AAP2013は膨隆をAOMの診断に必須としているが、診断したAOMに対しては抗菌薬使用の余地を常に残している。

このような違いはあるが、概ね、最終的な出力となる治療方針については、日小耳2009とAOM2013で大きな差は出てこないのではないか。

 

(2)へ続く

おいしいペニシリン系抗菌薬を求めて

AMPC(アモキシシリン)の製剤は、全ての細菌性気道感染症に処方される基本の内服薬。ペニシリン系。

時代が進み、さらに色々な細菌に効果のあるセフェム系の内服薬が現れた。色々な細菌に効くので、よく売れた。

小児への処方は、味も重要なファクターである。セフェム系の粉薬は味も良かったので、小児科の世界も席巻した。

 

しかし、さらに時代が進むと、じつは、健康なヒトの気道感染症の治療であれば大部分は治療不要であること、治療するとしてもAMPCで十分であること、がわかってきた。

そして、セフェムのように色々な菌に作用する薬は、薬の効かない菌を生み出すことにつながり、よくないと言われるようになった。

 

なので、現在の医師は、AMPCを使うか、セフェムを使うか、または他の系統の内服薬を用いるか、患者さんの症状と背景をみて色々と考えて使い分けている。使い分けるといっても、実際の所、ほんとうに考えて処方しようとすると、気道感染症にセフェムを選択することは殆ど無い。自分も、この小児の「細菌性気道感染症」に対しては、セフェム系を処方することはゼロである。

 

ただ、なーんも考えていない医者にとってセフェム系は、なーんも考えていなくてもなんとなーく色々と効く、または効かなくてもべつによかったりするので、使いやすいのは確かである。

世の小児科医らにとっても使いやすい薬であり、現在も頻用されている。しかしそれは、小児科医がなーんも考えていないからではなくて、味の良い製剤が多いのと、内服する総量が少なくて済むからである。

「治療要らないです」というと不服そうな顔をされることがあるし、まずーい薬だと嫌がられるし。相手は子供なので、まず「美味しい」「ちゃんと内服してくれる」というのは、大きなファクターなのである。

 

このような事情で、自分としては「味の良いAMPC(ペニシリン系抗菌薬)製剤」「内服量が少なくて済むAMPC製剤」が欲しかった。そういうの作らないのかと、製薬会社のMRに会う度に投げかけてきた。同じ意見の小児科医、世の中に多いと思う。

 

が、彼らは作れない。少なくとも日本の会社はそれを売れない。それも分かる。

 

なぜなら、いかに美味しく、内服量が少なくて済む製剤ができたとしても、その本質がAMPCであるかぎり、薬価としてはこれまでと同様の非常に安い値段でしか売れないからである。「薬そのもの」に付加価値がないと、味がよいというだけでは高い値段がつけられないのである。こちらとしては、ちょっとくらい高くてもいいからそういう薬が欲しい、ぜったいに世の中のためになると思うのに…矛盾している。

 

AMPCは10%の製剤が多いが、20%のものもあるので、当院ではそれを採用して、できるだけ子供たちに内服してもらえるように祈っている。が、それでもセフェム系を処方した場合の飲みやすさには負ける。薬剤としてはAMPCを用いたほうが子供たちのためだと思うのだが、与える親からしてみれば、美味しくて飲ませやすい薬を処方してくれる医者のほうが、良い医者に映るかもしれないと、憂鬱である。

 

クラバモックスという製剤があって、これはAMPCとクラブラン酸(CVA:βラクタマーゼ阻害薬)の合剤なんだけど、味はまあ悪くはないし、なんといっても濃度が高く、内服量がそれほど多くならない。

この薬剤は、βラクタマーゼ(ペニシリン系などの薬剤を分解してしまう)を産生するような細菌に対抗するために、βラクタマーゼの働きを抑える薬剤(=クラブラン酸)を合わせてあるものである。

なのだが、実は、日本で、気道感染症に限れば、βラクタマーゼを産生する菌は少ないのだ。βラクタマーゼ産生菌がそこそこいるアメリカと、事情が違うのだ。

せっかく一緒にしていただいたCVAであるが、こと気道感染症に用いる限り、「日本では」あまり意味が無いのである。

意味が無いばかりか、CVAのせいで吸湿性が増えてしまい、分包化された状態で販売されているので、体重に合わせた処方量にしにくい、というかできない。それにCVAのせいで腸内細菌にも結構効いてしまうので、AMPC単剤に比べて下痢が多くなる。

ぜんぶ、現在の日本ではあまり意味のないCVAのせいで。

だから、よい薬だと思っていても、クラバモックスを初手から使うことはない。まずAMPCを用いる。そしてAMPC製剤を処方する度に、「ちゃんと内服してくれるか」「ここの医者が処方する薬は飲みにくい、とか言われないか」「飲みにくいだけならまだしも、効きにくいとか思われると嫌だなあ」とか、いろいろ考えてしまうのである。

 

輸入して販売してるのだから、クラブラン酸なして日本向けに作ってくれ、とはいえないのだけど、AMPC単独の製剤を販売してくれたらどれほど良いだろうとおもう。

そんな製剤があれば、いまのセフェム使いすぎの風潮(しかもそれは、薬の効果範囲が広いという理由だけでなく、味や飲みやすさという二次的な理由からも来ているのだ)を脱却できる、ひとつのきっかけとなるのだが。