米国小児科学会 中耳炎ガイドライン2013 概訳と私的コメント(1)
The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media
Pediatrics 2013;131;e964
PMID:23439909
American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians
以下、米国小児科学会、米国家庭医学会の発表した、「急性中耳炎(以下AOM)の診断と管理に関するガイドライン2013(以下AAP2013)」について、概訳と、考えたことをコメントします。このガイドラインは、これは2004年に出版されたガイドラインのアップデートです。
長くなるので2パートに分けます
- 診断~抗菌薬を投与するか否かの判断編
- 抗菌薬の選択 その他編
セクション1(AOMの診断)
ガイドライン2004の診断基準は曖昧で、滲出性中耳炎症例がAOMに含まれてしまう危険があった。その結果、自然軽快していたかもしれない症例に抗菌薬が投与されていた可能性がある。AAP2013では、診断基準を厳密にする。
- 鼓膜が中等度以上に膨隆している場合、または、耳漏が新たに出現した場合に、急性中耳炎と診断する。
(Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)
- 鼓膜が軽度膨隆しており、かつ、48時間以内に始まった耳痛・耳を気にする仕草を認める場合、または、鼓膜が強く発赤している場合。
→ 急性中耳炎と診断する。
(Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)
※訳注:and/orの係りがよく理解できなかったが、膨隆は必須条件と思われる。
- 中耳に滲出液貯留の無い児をAOMと診断すべきではない。
(Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)
※コメント:AAP2013において、AOMの診断には耳漏、鼓膜の膨隆のいずれかが必須となっているようである。
セクション2(疼痛コントロール)
- 痛みの評価は大切。痛みがあるならば、それを抑える治療を勧めるべきである。
(Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation)
※コメント:痛みのコントロールは強く推奨されている。
セクション3(抗菌薬の投与)
- 以下のサインは重症を示唆する。抗菌薬を処方すべき。
・中等度以上の耳痛
・48時間以上持続する耳痛
・39度以上の発熱
(Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation) - 2歳未満の患児:重症サイン無し:両側
→ 抗菌薬を処方すべきである
(Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)
- 2歳未満の患児:重症サイン無し:片側
- 2歳以上の患児:重症サイン無し
→ これらの場合は、抗菌薬を処方するか、経過観察とするか、保護者と相談して決定する。
経過観察とした場合、48~72時間後に確実に再診察すること。
再診察時に改善傾向がなければ抗菌薬を開始する。
(Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)
※コメント:2歳以上の軽症でも抗菌薬投与の余地があり、抗菌薬開始基準が緩い印象である。
これは、AOMとの診断を厳密に行う(滲出性中耳炎との区別を明確につける)ことが前提にあるからだろうか。
ちなみに、日本小児耳鼻科学会のガイドライン2009(日小耳2009)では、軽症例は抗菌薬非投与で3日間経過観察とされている。この軽症はスコアリングで判定される。膨隆があっても軽症になるケース、膨隆がなくても中等症になるケースが一部存在する。
日小耳2009では膨隆のないケースもAOMに含め、経過観察を主体とする一方で、AAP2013は膨隆をAOMの診断に必須としているが、診断したAOMに対しては抗菌薬使用の余地を常に残している。
このような違いはあるが、概ね、最終的な出力となる治療方針については、日小耳2009とAOM2013で大きな差は出てこないのではないか。