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米国小児科学会 中耳炎ガイドライン2013 概訳と私的コメント(2)

The Diagnosis and Management of Acute Otitis Media

Pediatrics 2013;131;e964

PMID:23439909

American Academy of Pediatrics, American Academy of Family Physicians

この記事は2パートのうち2記事めにあたります。

  1. 診断~抗菌薬を投与するか否かの判断編
  2. 抗菌薬の選択 その他編

抗菌薬の選択 その他編

 

起炎病原体について

 (AOMの病原体としてウィルスと細菌が想定されるが)厳密なAOMの基準と、感度の良い培養を用いれば、AOMのほとんどは細菌の関与がある、としている。

 

※コメント:日本小児耳鼻科学会のガイドライン2009(日小耳2009)ではウィルス性と細菌性を両方想定している。日小耳2009のほうがより軽症例までAOMに含んでいることになる。

 

三大起炎菌は、

肺炎球菌ワクチン普及前(AAP2004の時代)はSpが最多の起炎菌であったが、ワクチン普及後、Hiの増加、Spの非ワクチン株の増加が起こり、結果として現在はHiとSpがほぼ同じ割合である。

化膿性結膜炎を合併しているケースではHiの割合が高い。

マイコプラズマによる中耳炎は以前はあると信じられていたが、実は稀である。

 

※コメント:日本とほぼ同じ。PCV普及後の変化は、日本ではこれから現れてくるだろう。化膿性結膜炎とHiが関連していることは初めて知った。

 

感受性について
  • Spの感受性

データは反復性のAOMに偏ってしまうが、全年齢のデータで、AMPCで40mg/kg/day分2の治療には83%が感受性あり、80-90mg/kg/day分2で87%感受性あり。

AMPC+CVAとAZMの比較ではAMPC+CVAの勝利。

  • Hiの感受性

AMPC40mg/kg/day分2の治療には58%が感受性あり、80-90mg/kg/day分2で82%感受性ありというデータが提示されている(が、これはAOMでないデータでソースもバラバラであるとの断りつき)。

  • Mcの感受性

Mcはβラクタマーゼを産生しAMPCには検査では耐性となるが、McによるAOMは自然軽快も多く、AMPCでほとんどが軽快する。

  • セフェムに関して

SpはCFDN/CPDXに対して70-80%の感受性(AMPCでは84-92%)。

HiはCFDN/CPDXに対して98%の感受性(AMPCでは58%、AMPC+CVAで100%)。

 

セクション4(初期抗菌薬の選択)

以上の感受性を踏まえての初期選択薬の推奨

  • 抗菌薬の1stChoice:以下の児にはAMPC 80-90mg/kg/day 分2を処方する
    ・過去30日以内にAMPCを使用していない
    ・化膿性結膜炎を伴っていない
    ペニシリンアレルギーでない
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

  •  抗菌薬の1stChoice:以下の場合はAMPC+CVA 90mg/kg/day 分2を選択する
    ・過去30日以内にAMPCを使用している
    ・化膿性結膜炎を伴っている
    ・AMPCで改善しない急性中耳炎を反復している
    (Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)

・AMPCの常用量という選択肢はない。(日小耳2009ではAMPC常用量の選択肢がある)。

 

※コメント:インフルエンザ菌のアメリカと日本の違い

Hiは日本とアメリカで素性が異なる。上記でHiの頻度が高い化膿性結膜炎を伴っているケースではAMPCよりもAMPC+CVAを選択するようになっているのだが、日本のHiはβラクタマーゼ産生よりもPBP変異による耐性が多いため、βラクタマーゼ阻害剤を加えても感受性にほぼ差が出ないと予想される。

SpもPBP変異なので、βラクタマーゼ阻害薬は感受性に関係がない。Mcは頻度少ないし弱い。製薬会社は、常在しているMcのβラクタマーゼが悪さをする、とのたまうが、実感することは少ない。
なので、大雑把に言うと、日本で使うぶんにはAMPCでもAMPC+CVAでも抗菌力には大差ないと考える。(ただし、AMPC+CVA(クラバモックス)は効果範囲が広く、過剰治療につながる。嫌気性菌に感受性があり、下痢は多い。しかし総量は少なくてすむので、AMPC製剤より、子供にのませやすい感触がある)。

 

#初期抗菌薬で改善しなかった場合の治療

  • AMPC→AMPC+CVA 90mg/kg/day 分2
  • AMPC+CVA、セフェム→CTRX(ロセフィン)50mg/kgを筋注または静注×3日間

 

#治療変更後も症状が改善しない場合

  • 鼓膜穿刺+中耳内溶液の培養を行うべきである。
  • 不可能な場合は、CLDM+セフェムとする。

 

※コメント:

上でも述べたが、日本のHiの特性をみる限り、アメリカとは異なり、AMPC高用量による治療失敗例に対してAMPC+CVAを投与する意味は薄いと思う。

 逆に日本ではアメリカと比べて入院の閾値が低い。AMPC高用量で治療がうまくいかない症例はさっさと入院させ、点滴加療とする事が多い。そのときに使用する注射薬は、ABPC(ビクシリン)で十分である。日小耳2009では、ABPC150mg/kg/dayもしくはCTRX60mg/kg/dayとなっている。

 

#代替治療:ペニシリンアレルギーのとき

  • CFDN(セフゾン)14mg/kg/day 分1~2
  • CPDX(バナン)10mg/kg/day 分2
  • CXM (オラセフ)30mg/kg/day 分2

内服がどうしてもできないとき:

  • CTRX(ロセフィン)50mg/kgを筋注または静注×1日又は3日間

(FDAに承認されているのは1回静注だが、再発を防ぐには複数回静注が必要とされている)

 

※コメント:セフェム系の内服薬について

AAP2013ではセフェム内服はあくまで効果の劣る代替治療である。これに対し、日小児2009で、重症例の選択肢に倍量CDTR(メイアクト)が入っている。これも、上に述べた、耐性Hiの素性の違いが背景にあるのかもしれない。

ただし、セフェム系の内服薬で日小耳2009に入っているのはCDTRのみ、しかも、常用量でなく倍量(18mg/kg/day)である点については、日本の小児科医・耳鼻科医はよくよく知っている必要がある。AOMに対しセフェムを常用量で用いるという選択肢は無い。

 

セフェム系ではCDTRの他にCFPN(フロモックス)、CFDN(セフゾン)、CPDX(バナン)などが使用されるのをよく見かけるが、少なくとも日小耳2009にはその記載はない。

個人的には、感受性から言って、CFPNやCPDXは使用の余地があり、CDTRとの間に大差は無いとは思う。が、「AOMへはペニシリンの方が良い」「どうしてもセフェムを使うなら倍量投与」が原則であり、セフェム常用量投与はすべきでないとは考える。

あとCFDN(セフゾン)はAAP2013には入っているのだが、日本の感受性分布をみていると、AOMに使用するのは厳しいと考えている

 

AAP2013のCFDNの分1-2内服については謎である。日本では分3で内服させる。セフェムの内服という吸収の悪い薬、薬剤移行の悪い中耳という環境で、十分な組織内濃度が得られるとは思えない。分2なら、内服を容易にする目的で許容範囲なんだろうか(でも自分ならやらないけど)とも思えるが、分1となると意図がよくわからない。これでは効かないんじゃないのか?

 

あと、AOMにAZM(ジスロマック)を使用するというのは、止めてほしい治療選択である。日本でも時々見られるのだが、感受性から言って不利は明白である。AAP2013でも上記のように否定されており、日小耳2009でも記載はない。

 

 

#高度耐性肺炎球菌に対して

LVFXやLZDの選択が考えられるが、FDAには認められていない。

 

※コメント:さらに広域の抗菌薬について

広域の抗菌薬で、日本で小児への使用が認められているものとして、TFLX(オゼックス)やTBPM(オラペネム)があるが、今の今まで全く存在を忘れていた。AOMに対して処方を認められた薬剤ではあるものの、おすすめすることはできない。AOM再発を頻回に繰り返している場合に、しばらくの無治療期間を経て、鼻咽頭あるいは鼓膜穿刺液の培養を必ず採取した後に、これらの薬剤を選択するならば何とか許されるだろうか。しかし自分は一生処方することはないであろう。

 実際には、AMPC+CVA(クラバモックス)を使用して改善が得られなかった時に、これらの薬剤が選択されることが多いだろうが、その状態で更に内服治療にこだわるのは危険であり、さっさと点滴治療で中耳をクリアに戻すべきであると考える。いくら内服治療を親が望んだとしても、リスクを背負うのは子供である

 もし、AMPC+CVAでの治療失敗を経ることなしにオゼックスやオラペネムを使おうとする医師がいたら、さっさと別の医師にかかるべきであるので、この点は強調しておきたい。

 

  • 治療を開始したら、48~72時間後に経過を観察すべきである。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

#治療期間について

AOMに対する最適な治療期間についてはよくわかっていない。

一般的には10日間の投与が行われるが、これは、溶連菌性咽頭扁桃炎のAMPC10日間レジメンに由来する(要するに根拠はない)。

  • いくつかの研究で、2歳未満のAOM治療には10日間投与の優位性が言われているので、AAP2013でもそれを勧める。
  • 2歳から5歳で重症でなければ、7日間投与でも効果は同等と思われる。
  • 6歳以上で重症でなければ、5日間投与でも良い。

 

コメント:

この治療期間は自分の感覚と比べるとかなり長い。

日小耳2009では、軽症重症関係なく5日間投与が勧められている。

 

 

#その他

  • 急性中耳炎を反復している児に対して、予防的に抗菌薬を使用すべきでない
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • チューブ留置の適応
    ・半年間に3回の急性中耳炎のエピソード
    ・1年間に4回、その前の半年間に1回のエピソード
    (Evidence Quality:B、Strength:Option)

  • 肺炎球菌ワクチンはスケジュール通りの接種を勧めること
    (Evidence Quality:B、Strength:Strong Recommendation)

 

  • インフルエンザワクチンも勧めるべきである
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • 少なくとも6ヶ月間は母乳栄養を続けることを奨励すべきである。
    (Evidence Quality:B、Strength:Recommendation)

 

  • タバコの煙への曝露は避けるべきである。
    (Evidence Quality:C、Strength:Recommendation)