小児に解熱剤を使用すると、発熱は長引くか?(結論は得られなかった)
世の親は、子供の熱が高いと不安である。
心拍も高いし、はあはあ言うし、しんどくて動けないしで、その気持はよく分かる。
一方小児科医としては、あまり熱の高さを重要視しない。
それよりも、表情だとか、呼吸数だとか、皮膚色だとかを含めて、総合的に、現在の状態を把握する必要があるのであって、一概に熱が高いから何か介入が必要だ、ということにはならない。
「熱が高すぎると、脳に障害が出ないか心配で・・・」とよく言われるが、一般的な発熱の範囲(41度くらいまで)で脳に障害が出ることはない。
それはおそらく伝統的な知識で、「細菌性髄膜炎」や「熱性けいれんの重積」を解釈した結果、「発熱」が「脳に障害を与えた」という、誤った、情報が蓄積したものなのだろう。
ここで、親と小児科医の意識が乖離してしまう。熱が高くとも、他のポイントをみて「大丈夫」という小児科医と、「何とかして熱を下げたい」という親である。
熱を人為的に下げても、炎症には何の効果もないと知っている小児科医は、このように話す。
「熱は、病原体の増殖を抑えるために、体が自分で体温のセットポイントを変更しているから、上がるのです。 体は、自分の体が耐えられる温度を当然知っています。それ以上にセットポイントを上げることはなく、したがって、発熱そのものによる人体への影響はありません。」
ここまでは、たしかにそうであろう。
問題は次からの小児科医の発言である。
「そもそも、せっかく病原体の増殖を抑えようと体が頑張っているのに、それを下げてしまったら、病気が治るまでの期間が長くなってしまいますよ」
これは、本当だろうか?
J Pediatr. 2013 May 7
Does the Use of Antipyretics in Children Who Have Acute Infections Prolong Febrile Illness? A Systematic Review and Meta-Analysis.
PMID: 23664629
小児において、解熱剤の使用は、感染症からの回復にどのような影響を与えるか、システマティックレビュー&メタアナリシス。
解熱剤の使用有無で比較した6つの文献が見つかり、うち5つを統合。3件は小児マラリアに関する文献であり、他は、ウィルス感染一般/呼吸器感染症/水痘。
患者背景はほぼ差なし。
解熱までの時間は、解熱剤を使用したほうが、4.16時間短い(-6.35 - -1.96, P=0.0002)との結果。
>結論として、解熱剤の使用が感染症からの回復を遅らせる、という根拠は得られなかった。
コメント:
・・・という文献なのであるが、
いくら患者背景に差なしといっても、感染症の種類がマラリアから水痘まで実に様々であり、一概にメタアナリシスとしてしまって良いものか。
たぶん駄目なんじゃなかろうか。
解熱剤の有無では回復時間に差は無いんだろうなあ、という、漠然とした予感はあるのだが、
この文献を手放しで信じることはできまい。
逆に、この系統の調査研究がいまだ6編しかなされていないという点が驚きでもある。
熱を人為的にでも下げたほうが良いのか、否か。決定的な文献は、まだ得られていない。