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simbelmynë :: diary

小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

僕達の失敗:10価PCV+NTHiワクチンはNTHiの「保菌」に対しては効果なし

Haemophilus influenzae(Hi)は、気道感染を引き起こす細菌の一つである。

ややこしいけど、インフルエンザの病原体ではない、ということは、さすがに結構みんな知ってるようになった。

莢膜型というものでa~fに分類されており、Hia, Hib・・・などと呼ばれる。

莢膜を持たない株もあり、それはnon-typable Hiと呼ばれ、NTHiと略されることもある。

 

このうち、凶悪なのはHibである。Hib(ヒブ)は、肺炎や中耳炎などの一般的な感染症状は起こしづらく、重症感染症敗血症や髄膜炎、急性喉頭蓋炎など)の起炎菌となる。また、小児にそうした重症感染症を引き起こす原因として最多のものでもあった。

あった、というのは、御存知の通り、Hibにはワクチンが開発されて一般化し、世の中からHibを原因とするこれらの重症感染症は劇的に減少したからである。日本でも、とっても遅ればせながら2008年末に導入された。その後の調査結果はまだ集計中のはずだが、一小児科医として、最近は髄膜炎をとんと見ていない、重症感染症を診ることがぐんと減った実感がある。

 

で、NTHiはHibの逆で、小児において肺炎や中耳炎をきたす原因菌の一つである。原因菌のうち最多かどうかは統計によって異なるのではないかとおもうが、肺炎球菌(S.pneumoniae)と並んでツートップなのは異論がないであろう。

 

Hibは制したとばかりに、このNTHiが、次のワクチンターゲットになったようである。

 

で、GlaxoSmithKline(GSK)が開発したのがこのSynflorixというワクチンだそうで、NTHiに加えて、肺炎球菌10価との混合ワクチンとなっている。10価というのは簡単に言うと10種類ということで、肺炎球菌にも種類があるけれどそのうち多い10種類を含みますよ、の意味である。ちなみに2013年現在日本では7価の肺炎球菌ワクチンが使用されている。世界的には、10価、そして13価へと進みつつある。

ま、肺炎球菌はおいておいて、NTHiに対する効果をみたのがこの文献である。

 

さきに申し上げるが、このスタディーが示したのは、NTHiに対する効果が「なかった」という結論である。なかったといっても、「惜しいが有意差がつかなかった」のレベルではなく、「まったく、完膚なきまでに、なかった」「コテンパン」という感じである。

詳しく言うと、NTHiの「保菌」に対する効果は無かったようである。つまりNTHiによる「感染症:肺炎や中耳炎」が減ったかどうかは、このスタディの主目的ではなく、わからないので注意。

が、少なくともこのスタディを設計した人たちは、「保菌」が減るのではないかとのある種の期待を持ってスタートしたはずなので、「期待されるほどの効果はなかった。」という残念な結果になったわけである。

ここをどうして強調するかというと、この研究には、資金提供から解析から、GSK自体が深く関わっているからである。

 

私達はいつも製薬会社が自社製品を「合法的な範囲でいかに良く見せるか」に腐心していることを知っているが、このスタディは、自社の利益に反する、良くない結果を公表している

(ま、仮に、この結果を隠してしまっても、結局見つかってしまって、更に大きな不利益になっちゃっただろうから、公表するのは当然かもしれないけどね)

 

 

Effects of the 10-valent pneumococcal nontypeable Haemophilus influenzae protein D-conjugate vaccine on nasopharyngeal bacterial colonization in young children: a randomized controlled trial.

Clin Infect Dis. 2013 Feb;56(3):e30-9.

van den Bergh MR et al

PMID: 23118268

 

※GlaxoSmithKline(GSK)からの資金提供あり

 

目的:

10価肺炎球菌+nontypable Hi protein Dワクチン(PHiD-CV) と 7価PCV との比較

 

方法:

オランダで実施されたランダム化二重盲検

7価PCVが導入されて2年が経過した後、2008年4月から開始して、2010年12月1日で終了。

 

ワクチンは左右の大腿に筋注する。

 

PHiD-CVはSynflorixという商品名で、GSKの製品。

7価PCVは日本でもお馴染みのプレベナーで、ファイザーの製品。

DTaP+HBV+IPV/Hibは混合ワクチン、Infanrix hexaで、GSK製品。これいいなあ、日本で認可してほしいなあ。

DTaP+IPV+Hib混合ワクチンはPediacelという商品名で、サノフィ-パスツールの製品。

 

N=780。

 

生後2、3、4、11~13ヶ月時に予防接種を行う(日本の7価PCVも同じスケジュール)。

接種するワクチンを以下のようにグループ分け いずれも260名。

(1)PHiD-CVと、DTaP+HBV+IPV+Hib混合 の同時接種

(2)PHiD-CVと、DTaP+IPV+Hib混合 の同時接種

(3)7価PCVと、DTaP+IPV+Hib混合 の同時接種

 

5,11,14,18,24ヶ月で鼻腔のサンプル採取。以下の検査を行う

(1)培養(H.influenzae, S.pneumoniae, M.catarrhalis, S.aureusの検出)

(2)PCR(H.influenzaeとS.pneumoniaeの定量、nontypable H.influenzae(NTHi)の確定)

 

プライマリ・アウトカムは、NTHi保菌に対するワクチンの効果

 

結果:

両グループにおいて、 NTHi保菌に有意差なし。ワクチン効果0.5%(95%CI -21.8%~18.4%なので、まっっったくなし)。

その他、S.pneumoniae、M.catarrhalis, S.aureusの保菌パターンにも違いを認めず。

 

結論:

PHiD-CVにNTHi保菌を防ぐ効果はなかった。