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重症敗血症に対するβラクタムの持続投与(多施設ランダム化二重盲検)

βラクタムの持続投与が間欠的投与より有効かどうかは流行の話題。

βラクタム系は現在最も一般的で、そして成功している、抗菌薬の一群であり、ペニシリン、セフェム、カルバペネムを含む総称である。

 

βラクタムのばあい、血中濃度が起炎菌のMIC(最少発育阻止濃度)を上回っている時間の割合が、臨床的な効果と相関するとされている。

だから、間欠的に投与して血中濃度を上下させるよりも、持続投与で一定の濃度を保ったほうが、効果が高い可能性がある。

 

一般的には間欠投与が行われるし、それが常識であって、特別感染症に興味をもたない医師にとっては、持続投与という方法に思いを巡らすことすら少ないかもしれない。

しかし、いま間欠的投与が一般的なのは、単純に歴史的にそれが一般的であったからにすぎない。

 

果たして持続投与はどれくらい有効なのか、間欠投与より有利なのではないか?この疑問に対して、臨床的には、決定打となるトライアルはまだないのであった。

 

 

 

Continuous infusion of beta-lactam antibiotics in severe sepsis: a multicenter double-blind, randomized controlled trial.

Dulhunty JM et al.

Clin Infect Dis. 2013 Jan;56(2):236

PMID: 23074313

 

背景:

βラクタム系の抗菌薬は、重症敗血症に対して常用される。通常、間欠的に投与される。

が、持続投与に比べて優位であるという強い根拠があるわけではない。

重症敗血症において、間欠投与と持続投与を比較する。

 

方法:

前向き二重盲検RCT。薬剤はPIPC+TAZ, MEPM, ticarcillin-clavulanateである

(この3剤で重症敗血症に投与される抗菌薬の56%を占めるそうである。前2つは日本でも使用可能)。

 

オーストラリアと香港の5つのICUで実施。

対象は、48時間以内に発症した重症敗血症。3ルーメン以上のCVカテーテルが必須。18歳以下、持続透析は除外する。

 

患者は、抗菌薬持続点滴+プラセボ・ボーラス群と、プラセボ持続点滴+抗菌薬ボーラス群にランダムに割り付ける。

24時間の総投与量は主治医に任せる。

 

持続点滴は、PIPC+TAZ、ticarcillin-clavulanateであれば24時間で交換、MEPMは8時間で交換。中身がプラセボであっても当然交換する。

持続投与もボーラス投与も同じ専用のルーメンから実施される。スタッフからはブラインドである。

 

血中濃度の採血は、day3とday4の48時間の間で、ボーラス投与の直前に実施。最大3回分まで。

 

MICのしきい値は(真の起炎菌ではなく)緑膿菌のものを基準として用いている。

すなわち、PIPC+TAZとticarcillin-clavulanateについては16μg/ml、MEPMについては2μg/mlを使用。

 

プライマリ・エンドポイントは、薬物動態学的なもので、この標準しきい値血中濃度が上回っていたかどうか。

「全ての採血ポイントでしきい値を上回っていた場合」に、「上回った」と判定する。0か1かのデジタルな判定となる。

 

セカンダリ・エンドポイントは、臨床的効果。

day7-14での臨床的反応、治癒までの日数。day28時点でICU-free-days(生存してICUを出られてからの日数)。

毎日のSOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment)、感染のフォーカスなども記録。

 

 

結果:

60名の患者を間欠投与、持続投与に30名ずつ、ランダムに割り当て。

うち22名ずつ、合計44名が4日間以上の治療を行った。

両群で抗菌薬の投与量に差なし。

起炎菌が判明したのは両群とも17名。うち、βラクタムが有効な菌種であったのは、両群とも14名で同じ。

 

 

血中濃度の比較で有意差が出たのは、初回採血時のMEPMのみ。他の薬剤の血中濃度では有意差がなかった。

しかし、血中濃度が標準MICを上回った割合は、持続投与群で81.8%, 間欠投与群で28.6%で有意差があった。

 

※コメント

血中濃度の比較で有意差が出ていないのに、「全ての採血で設定したしきい値を上回った割合」では有意差が出ている。

ここは疑問点である。

同じ一日投与量で、間欠投与直前で採血すれば、間欠投与群のほうが数値的に低くでるのは自明である。わざわざ間欠投与の場合に低くなることがわかっている時間で採血している。(それでも有意差はつかなかったのだが)

ここにさらに、しきい値を仮設定して○×判定にして、さらにさらに、3回上回って初めて○がつくというルールにしている。

これは持続投与群に圧倒的に有利な採点システムだと思う。

 

 

臨床的効果では、治癒は持続投与群23/30、間欠投与群15/30で、P=0.032で一応の有意差(CIは示されていない)。

治癒までの日数は、11(6.75-24.25)対16.5(7-28)で、P=0.14。

ICU-free daysは、19.5(12.75-24)対17(0.75-22)で、P=0.14。

 

生存率のKaplan-Meierは以下のようになっていて、有意差はない。

f:id:simbelmyn:20130618184121p:plain

 

 

結論:

持続投与群は間欠投与群に比べて高い血中濃度が得られ、臨床的効果も改善した。

さらなるトライアルが必要。

 

※コメント

・・・という結論になっているが、どうも、血中濃度に関しては持続投与を過剰評価しているような気がする。

この文献を読む限りでは、持続投与がえこひいきされている感じがして、スッキリしない。

とはいえ、治療成績に有意差がないのであれば、それはそれで有意義な結果である。持続投与のほうが管理が簡単であるなら、持続投与を選ぶメリットもありえるのではないか。