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小児科医療 & 趣味はコンピュータいじりです

解熱鎮痛薬アセトアミノフェンと気管支喘息との関係

アセトアミノフェンは、最も頻用される解熱鎮痛薬である。商品名としては、カロナール、コカールなど。市販の解熱薬としても使われ、小児用バファリンもアセトアミノフェンである。

 

アセトアミノフェン気管支喘息の危険因子である可能性があり、使用を控えるべきではないか、という意見が以前からある。実は自分も、開業のアレルギー科医師に受診されたお子さんの親から、「アセトアミノフェンの使用は控えるように」と指導されたと聞いて、「へっ?」となったことがある。

 

果たしてこの意見は、根拠のあるものなのか?この件には多数の報告があるようなのだが、2008年9月にLancet誌に掲載された文献について、日経メディカルに解説があった。

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/lancet/200810/508278.html

 

しかしリンク先を見れば分かることだが、この文献は相関関係を示しているのみで、因果関係を示してはいない。つまりどういうことかというと、「気管支喘息の児を調査すると、コントロール群と比べて、有意に、アセトアミノフェンの使用量が多い」というデータがあるのみなのである。

 

だからアセトアミノフェンは危険なのだ、という結論に至って良いのか?もちろん良くない。相関関係と因果関係の混同というよくある話になる。

 

気管支喘息のヒトは呼吸器感染症になりがちであり、ゆえに発熱も多く、アセトアミノフェンの使用量も多いのである」という反論は十分成り立つ。気道粘膜に問題のある人は風邪をひきやすいから解熱剤をよく使う、という可能性。他にもいくつか、反論のしようがある。

 

これに対して、危険だと考える人達は、アセトアミノフェン以外の解熱鎮痛薬、たとえばイブプロフェンの使用量には有意差がない点だとか、アセトアミノフェンの使用量と喘息の有病率に正の相関がある点とか、ある地域のアセトアミノフェンの販売量と喘息罹患率に相関がある点をもって、自分たちの意見を補強するのであるが、まあこれは補強には全くなっていない。

 

 

もし、アセトアミノフェン気管支喘息に、相関関係ではなく因果関係があることを証明したいのであれば、このような後方視的な調査が全く役に立たないことは明白である。

 

そのためにはRCTを行うべきであり、具体的には、新生児期(場合によっては妊娠中から)解熱薬、鎮痛薬として、「デンプン」を処方される群と、「アセトアミノフェン」群、「イブプロフェン」群に分けて、もちろん、患者も医師も実際に何が処方されているのかは知らず、そして出生した子どもたちを年余にわたってフォローするのである。このデザインでは倫理的にちょっと苦しい気もするが、まあいわゆる二重盲検RCTである。

 

はっきり言って、上記のような相関関係だけで「アセトアミノフェンの使用を控えるべきだ」という意見を述べるのは過剰と思うし、二重盲検RCTをせずにそのような過剰な意見を述べる人たちは、要するになんでも良いから医学というものを否定したい、まあよくいるめんどくさい人達なのかな、という印象を持つ。

 

勿論、そうは言っても、相関関係がアセトアミノフェンにのみ見られてイブプロフェンに見られないというのは重大な結果であり(イブプロフェンに比べてアセトアミノフェンを使用している人たちのnが大きいだけではないか、とも思うが、ここは原典にあたるのをサボっている)、二重盲検RCTが望まれるのは確かである。

 

 

Pediatrics. 2011 Dec;128(6):1181-5

The association of acetaminophen and asthma prevalence and severity.

PMID: 22065272

 

そのような中で、2011年の上記のレビューに目を通してみた。

その結果、確かに、レビュー筆者らの言うように、強い相関関係があるのはよく分かる。だが、なぜそれがRCTで因果の方向性を証明するまで処方を取りやめるべきだ、といった、強い話になるのか、最後までよくわからなかった。

 

レビューの中で、前方視的な調査として2件が紹介されていたが、一件は1991~1993年のボストン大の調査で、二重盲検RCTである。2008年のLancetの時点でも当然存在していた文献。

 

アセトアミノフェンとイブプロフェンを比較して、アセトアミノフェンを処方されていたコホートのなかで、もともと喘息をもっていた患者では、外来受診頻度が高かった、というデータが引用されている。

こちらも原典に当たることをサボっており恐縮だが、まずコントロール群が置かれていないという問題がある。それよりも何より、この結果は「もともとある喘息の悪化とアセトアミノフェンの因果関係」を示唆しているのであって、アセトアミノフェンによる喘息発症を示唆してはいない、ように読み取れる。

解熱鎮痛薬と喘息の関係としては、アスピリン喘息があるが、アセトアミノフェンにもアスピリン程ではないものの、ごく僅かに喘息発作を誘発するリスクが有るのではないかと言われていて、そのことを示唆するデータのように思われた。

で、肝心の「もともと喘息を持っていない患者での、気管支喘息発症率」の有意差については、このレビューには書かれていなかった。原典にはひょっとして書いてあるのか?いや、書いてあればこのレビューに得々として書かれてあるはずか。少なくとも私達小児科医がそれを知らないわけがない。

 

もう一件は、何故かナース対象の調査で、「アセトアミノフェンを頻用した群では、その使用量に相関して、喘息発作が増加した」というものであり、全くもって、筆者らの主張を補強するようなものではなかった。

 

他にも、Pubmedで幾つか検索をしてみたのであるが、要するに、この2011年のレビューから現在の2013年に至るまでも、RCTで示された「因果関係」はないようであった。というか、RCT自体が見つけられなかった。

 

 

Expert Rev Respir Med. 2013 Apr;7(2):113-22. doi: 10.1586/ers.13.8.

The association between acetaminophen and asthma: should its pediatric use be banned?

PMID: 23547988

 

最近のこんな文献も見つけたが、「should be banned?」じゃないよ。なんで何年たっても同じ事いってるんだ?相関関係のデータしか無いのに、banなんて決断はありえない。当たり前じゃないか、としか思えないのであった。

 

以上、なんとなくであるが、オクスリキライ派、現代医学なんて意味ないよ派、薬害だ薬害だ派、ヒトは自然に生きるべきだ派の匂いを感じたのであった。彼らは世界中にいるのだなあ。自然に生きたければ短い寿命を受け入れてほしいものである。

 

と言いつつ、もちろん、今後RCTで因果関係が証明される可能性は十分にある。が、自分が何か行動するのは証明されてからにしようと思う。